想定している本記事の読者
本記事の読者は以下の方を想定しています。
- 未経験者からM&A業界への転職を考えている方
新卒や20代-30代の若手社会人で、未経験からM&A業界への転職を検討している方に、必要なスキルや知識、成功のためのステップについて解説します。 - 弁護士・公認会計士等のプロフェッショナルで、M&A業界への転職を考えている方
培った経験を活かしてM&A業界に転職を考えているプロフェッショナルに、M&A仲介やM&Aアドバイザリーの業界構造を詳しくお伝えしてまいります。 - M&A業界の経験者でキャリアアップやキャリアチェンジを検討している方
既にM&A業界で活躍している方に向けて、今後のキャリアパス等の事例の紹介を通じて、さらなるキャリアアップに向けた示唆をお伝えします。
M&A業界の採用が活発な背景
近年、M&A業界の採用は非常に活発化しています。その理由は以下4点に集約されます。
- M&A市場の成長と多様化
2022年のM&A件数は4,000件を超えていますが、2012年のM&A件数は2,000件に満たない水準であったため、日本企業が関係するM&A件数はこの10年で2倍以上に増加し、急速に日本のM&A市場は成長するとともに多様化しています。特に中小企業の経営承継問題や国際的な企業統合が増加しており、これに伴い、M&Aの専門知識を持つ人材への需要が高まっています。 - 政策や証券取引所の変化
日本政府主導で 2015年よりコーポレートガバナンス・コードが適用され、社外取締役の選任や政策保有株削減の促進、指名・報酬委員会の設置など企業価値の向上にむけた取り組みが促されるようになりました。2023年には東京証券取引所がPBR1倍を下回っている企業へ改善要請を出すとともに、経済産業省が従来は忌避されていた敵対的買収も踏まえた「企業買収における行動指針ー企業価値の向上と株主利益の確保に向けてー」といった指針を出すなど、M&Aを検討せざるを得ない環境が整いつつあります。 - M&Aに対する意識の変化
従来、日本ではM&Aを「身売り」や「乗っ取り」といった言葉で表現することもあったように、一般的に良いイメージが持たれていませんでした。M&Aを駆使して企業規模を大きく拡大させたホリエモンが2006年に証券取引法違反容疑で逮捕された事案などはその空気感を端的に表したものと言えます。当時と比べて、上記のとおりM&A市場が拡大してM&Aがより一般的になったことや、コーポレートガバナンス・コードの策定などによりM&Aを検討せざるを得ない外部環境となったことで、日本の経営者層のM&Aに対する意識は大きく変化しています。 - 人材不足と専門性の高まり
M&Aに関わる業務は専門性が高く、財務や法律、税務など広範に渡る知識が求められます。M&Aの市場が大きく拡大しているものの、専門性を有した即戦力となる人材をすぐに増員出来るかと言えば難しく、未経験者であってもポテンシャルのある人材であればM&A業界への門戸が開かれています。
なぜM&A業界へ転職すべきか
M&Aは会社の株式という、最も高額で複雑な商品を取り扱う仕事です。
その為、M&A仲介にしろM&Aアドバイザリーにしろ、関わる関係者は企業経営者を含むマネジメント層や、弁護士、公認会計士、税理士といったプロフェッショナルとなります。また、社内も優秀なメンバーで構成されている為、お互いに刺激しあうことが可能です。
そうした自分を磨くことが出来る環境で、M&Aにおける知識はもちろんとして企業ごとの多様なビジネスモデルや高度な交渉術を学ぶことが出来る為、自身の市場価値を大きく引き上げることが出来ます。
また、今後の転職に際しても、同業はもちろん、PEファンドやIPO準備会社のCFO、大手上場企業の経営企画部門など引く手あまたのキャリアを形成することが可能です。
筆者自身も、M&A業界に転職したことで大きく人生を変えることが出来た為、多少のプレッシャーや自己研鑽に耐えても何かを成し遂げたい方には、M&A業界への転職をお勧めします。
M&A業界の主なプレイヤー
【M&A仲介会社】
M&A仲介会社は、企業の売買を仲介する役割を担い、買い手と売り手の調整役として取引の成立を助けます。
売り手に対しては、企業価値の評価や買い手の選定、情報提供の方法などをアドバイスし、買い手に対しては、対象企業の選定から交渉、契約締結に至るまでのプロセスをサポートします。
後述のM&Aアドバイザリー会社との最も大きな違いは、買い手と売り手の両方と契約し、双方から報酬を得ることです。利益相反を指摘されることもありますが、案件規模が大きくない場合、買い手もしくは売り手のどちらかの報酬だけでは商売として成り立ちづらく、致し方ない側面があります。また、M&Aアドバイザリー会社は買い手もしくは売り手のフィナンシャルアドバイザー(FA)として、クライアント(買い手に雇われた場合は買い手、売り手に雇われた場合は売り手)の利益を最大化する代理人としての働きを求められますので場合によってはクライアントに対してM&Aの取り止めを助言することもありますが、M&A仲介会社は買い手・売り手の要望をうまく調整し、より案件を成立しやすくする働きをするといった違いもあります。
なお、利益相反といったM&A仲介会社が抱える構造的な問題や急速にM&A仲介の市場が発達してきたことに対応する為、2020年に中小企業庁より「中小M&Aガイドライン」の発表(2023年に「中小M&Aガイドライン」の改訂版が発表)がなされるとともに、M&A仲介会社で構成される「一般社団法人M&A仲介協会」が立ち上げられ、倫理規程や自主規制ルールの整備が進められています。
【M&Aアドバイザリー会社】
M&A戦略の立案から実行まで、総合的なサポートを行います。企業の財務分析、評価、デューデリジェンス、交渉支援、契約書の作成といった専門的な業務を担当します。
上述のとおり、M&Aアドバイザリー会社はフィナンシャルアドバイザー(FA)として、クライアント(買い手に雇われた場合は買い手、売り手に雇われた場合は売り手)の利益を最大化する代理人としての役割を担います。
M&Aアドバイザリー会社はM&A仲介会社とは異なり、買い手もしくは売り手のどちらか一方とのみ契約し、そちらからしか報酬を得ない為、より大規模で報酬が大きい(なお、M&A等の報酬の市場規模は、業界用語で「フィープール」という言い方をします)案件に特化しています。例えば日経新聞に載るような大企業の案件についてはM&A仲介業者が取り扱うことは稀であり、M&Aアドバイザリー会社の独壇場となっていて棲み分けがなされています。
【法律事務所】
法律事務所がM&Aに関わるのは、法務デューディリジェンス(法務DD)の場面となります。
デューディリジェンス(DD)とは資産査定のことを指しており、買い手企業からすると買収対象会社をきちんと精査しなければM&Aという大きな意思決定は出来ない為、外部の法律事務所を起用した法務DDや会計・税理士事務所を起用した会計・税務DDの2つは多くの案件で実施されており、それに加えてより大規模な案件になれば戦略コンサルを起用してのビジネスDDも実施されています(加えて、システムが重要な資産の案件であればセキュリティリスク等を精査する為のITDD、不動産が重要な資産の案件であれば環境DDなど、買収対象会社の特性に応じたDDを実施することになります)。
法務DDでは、買収対象会社の適法性や取引スキームの評価、またそれらの評価を踏まえて想定されるリスクを排除する為の契約書の作成、交渉の法的アドバイスがなされています。
例えば法務DDで残業代の未払い費用が発見された場合、買い手としては売買価格からその費用分を差し引くように交渉することとなります。また、残業代の未払い費用があるかどうかが明確にわからない場合は、株式譲渡契約書の表明保証条項にて、過去に残業代の未払い費用が発生していた場合は売り手が当該費用を支払うように約束させる規定を入れるように交渉することとなります。
【会計・税理士事務所】
会計・税理士事務所がM&Aに関わるのは、会計・財務デューディリジェンス(会計・財務DD)の場面となります。
会計・税務DDでは買収対象企業の決算書や財務申告書を精査し、経理慣行や税務に関するリスクを評価します。
買収対象会社が非上場の場合、現金主義もしくは税務基準で経理がなされていることが多く、一方で買い手が上場企業の場合、J-GAAPもしくはIFRSで経理がなされていることから、例えば買収対象会社としては直近期の決算で黒字と認識していたものの、買い手の会計基準で評価すると赤字ということもざらに起こることがあります。
上記のような分析等を会計・税務DDでは実施し、また、M&Aによる会計上や税務上の影響を分析し、最適な取引スキームの提案も行います。なお、会計・税務DDは財務DDと呼ばれることもあります。
【戦略コンサル】
戦略コンサルがM&Aに関わるのは、ビジネスデューディリジェンス(ビジネスDD)の場面となります。
M&AではDCF法(Discounted Cash Flow)という、将来収益を現在価値に割り引くことで買収価額を算定する手法が一般的ですが、DCF法での価値算定にあたっては買収対象会社の今後数年間の事業計画を適正に見立てることが重要となります。この事業計画を策定する上で、ビジネスDDを通じて、買収対象企業の市場ポジショニング、競争環境、今後の成長余地などを評価します。
よって、事業計画は買収価額に大きな影響を与えることとなり、事業計画の重要なパラメーターとなる成長率等の数値について、ビジネスDDの中で戦略コンサルから意見をもらうこととなります。
なお、買い手企業自身が買収対象会社と同業である場合など、買収対象会社のビジネスに精通していれば戦略コンサルは起用せず、買い手自身でビジネスDDを実行することもあります。
【PE・VC・ヘッジファンド】
プライベートエクイティ(PE)、ベンチャーキャピタル(VC)、ヘッジファンドは投資家として、企業の買収や成長資金を提供しています。
これらの投資家はリターンの創出に向けて、買収対象企業の経営体制の強化やM&Aの支援等を通じて企業価値の向上や経営改善にも関与します。
最も重要な点は、これらのファンドは年金基金等の機関投資家から投資資金を一定期間預かってリターンを創出する使命を負っていることから、M&Aの買い手であるとともに売り手でもあり、M&A市場を活性化する役割を担っています。
M&A仲介会社への転職
M&A仲介会社の主要プレイヤー
M&A仲介の業界では、上場している以下4社が大手となります。
- 株式会社日本M&Aセンター(M&A支援業務専従者の従業員数:519人)
- 株式会社ストライク(M&A支援業務専従者の従業員数:226人)
- 株式会社M&A総合研究所(M&A支援業務専従者の従業員数:224人)
- M&Aキャピタルパートナーズ株式会社(M&A支援業務専従者の従業員数:159人
※M&A支援業務専従者の従業員数はM&A支援機関登録制度の登録データベースより抜粋(2024年1月時点)。以下同様
上記の上場大手4社に続いて、M&A支援業務専従者の従業員数を20名以上有しているM&A仲介会社は以下17社となります。
- 株式会社fundbook(M&A支援業務専従者の従業員数:99人)
- 株式会社M&A DX(M&A支援業務専従者の従業員数:57人)
- 株式会社CBコンサルティング(M&A支援業務専従者の従業員数:54人)
- Growthix Capital株式会社(M&A支援業務専従者の従業員数:47人)
- ブティックス株式会社(M&A支援業務専従者の従業員数:45人)
- 株式会社レコフ(M&A支援業務専従者の従業員数:44人)
- 株式会社経営承継支援(M&A支援業務専従者の従業員数:43人)
- 名南M&A株式会社(M&A支援業務専従者の従業員数:41人)
- 信金キャピタル株式会社(M&A支援業務専従者の従業員数:36人)
- 株式会社オンデック(M&A支援業務専従者の従業員数:36人)
- インテグループ株式会社(M&A支援業務専従者の従業員数:31人)
- 株式会社ペアキャピタル(M&A支援業務専従者の従業員数:30人)
- M&Aロイヤルアドバイザリー株式会社(M&A支援業務専従者の従業員数:25人)
- SBI 辻・本郷M&A株式会社(M&A支援業務専従者の従業員数:25人)
- 株式会社たすきコンサルティング(M&A支援業務専従者の従業員数:22人)
- 辻・本郷M&Aソリューション株式会社(M&A支援業務専従者の従業員数:20人)
- 株式会社プレックス(M&A支援業務専従者の従業員数:20人)
なお、M&A支援機関登録制度には2024年1月時点で660社のM&A仲介会社の登録があることから、20名未満の新興・少数精鋭で活動しているM&A仲介会社が多い状況となっています。
日本M&Aセンターのような上場大手を卒業し、自身でM&A仲介会社を立ち上げる方が近年増加しており、そのような新興のファームではインセンティブの比率も高く設定されていることが多いことから、上場大手4社でなくても自分の腕を磨くとともに高額報酬を得ることが可能な業界となっています。
M&A仲介会社の業務内容
M&A仲介会社の業務内容は以下の流れで進み、ソーシングとエグゼキューションに大別されます。
会社によって、ソーシングからエグゼキューションを一気通貫で担当する会社と、ソーシングとエグゼキューションの担当が分かれている会社もありますが、M&A仲介会社では多くの場合、売り手担当と買い手担当に分かれてソーシングからエグゼキューションを一気通貫で担当するのが通常です。
【ソーシング】
・売り手並びに買収対象企業の発掘(直接営業又は他社からの紹介経由)
・売り手との秘密保持契約の契約(一般的にCA(Confidential Agreement)と呼びます)
・売り手のニーズのヒアリング及び買収対象会社に関する資料の受領
・売り手のニーズや買収対象会社の業況を踏まえた、想定する買い手候補企業や売却プロセス、売却価格目線の提案
・売り手とのM&A仲介契約の締結
【エグゼキューション】
・ティーザー及びIM(Information Memorandum)の作成
※ティーザーとは、買収対象企業の社名を分からない形で、企業概要をまとめた資料であり、買い手候補企業に送付して初期的な関心の有無を確認する為の資料となります
※IM(Information Memorandum)とは、買い手候補企業が買収対象企業に初期的な関心を持ち、買い手候補企業が秘密保持契約を締結した後に開示する買収対象企業の社名を含めた詳細資料となります
・買い手候補企業へのティーザーの送付
・買い手候補企業からの初期的な関心有無の表明
・売り手へのネームクリア
※ネームクリアとは、初期的な関心のあった買い手企業の社名を売り手に伝えて、IMを買い手候補企業に開示して問題ないかの許諾を取るプロセスを指します
・買い手候補企業との秘密保持契約(CA)の締結
・買い手候補企業とのM&A仲介契約の締結
・買い手候補企業へのIMの送付
・買い手候補企業と売り手のトップ面談の実施
・買い手候補企業からのQ&A、資料リクエストの対応
・買い手候補企業からのLOIの提示
※LOIとは意向表明書のことを指しています。意向表明書は法的拘束力を通常持たないものの、買い手候補企業としてどの程度の買収価額を考えているのかや想定している資金調達方法、アーンアウト等の条件があるかの記載をするものとなります
・買い手候補企業からのLOIの内容を踏まえて、売り手が買い手企業1社を選定
・買い手企業への独占交渉権の付与(独占交渉権の付与にあたり、基本合意書(MOU(Memorandum of Understanding)とも言いますが、通常は基本合意書と言います)を締結する場合もあります)
※独占交渉権とは、売り手に対して他の買い手候補企業とM&Aの交渉を行うことを禁止する、買い手企業の権利のことを指します。なお、買い手企業との交渉が不調となった場合、売り手としては他の買い手候補企業を改めて探索する必要が出てくる為、独占交渉権は通常、数か月の期間限定での付与となります
・買い手企業による各種DDの実施
・買い手企業による最終条件提示
・買い手企業と売り手による株式譲渡契約(SPA(Stock Purchase Agreement)又はDA(Definitive Agreement)とも言います)の締結
・クロージング(買い手企業による株式譲渡代金の支払いや、その対価としての株券の移動)
M&A仲介会社におけるソーシング
M&A仲介会社にとって最も重要であり、人員数やリソースを最も割いているのはソーシングにおける「売り手並びに買収対象企業の発掘(直接営業又は他社からの紹介経由)」のプロセスとなります。
M&A仲介は基本的に、買収対象企業のオーナーである売り手と、買い手の両方を自社でマッチングするビジネスモデルであることから、買収対象企業を探してきて、売り手となるオーナー社長を口説くことで案件が始まります。逆に、買い手がいても買収対象企業がなければ案件化しない為、企業オーナーを如何に探してきて、売却プロセスを進める意思決定をしてもらうかがM&A仲介会社の命となります。なお、こういった案件を作るプロセスのことを業界用語では「オリジネーション」とも言います。
では具体的に、どのように売る可能性のある企業オーナーを探してくるかですが、これはM&A仲介会社によって異なっています。例えば上場している大手M&A仲介会社の事例は以下のとおりです。
【M&Aセンター(23年3月期)】 直接営業37%、他社経由63%
【ストライク(23年9月期)】 直接営業54%、他社経由46%
【M&Aキャピタルパートナーズ(23年9月期)】 直接営業96%、他社経由4%
他社経由の比率がM&Aセンターとストライクの2社は5割程度以上と高い一方、M&Aキャピタルパートナーズは1割にも満たずに低いですが、これには各社のM&A仲介の開始時期が関係していると考えています。
具体的には、M&AセンターをM&A仲介を開始したのは1991年4月、ストライクは1997年7月であるのに対して、M&Aキャピタルパートナーズは2005年10月であり、先行者利益を活かして他社とのネットワークを構築した2社に対して、M&Aキャピタルパートナーズは後発であったことから自社での直接営業で事業を伸ばしてきたのがうかがえます。
なお、転職希望者にとって、他社経由の比率が高い事が必ずしも良いとは限りません。
なぜなら、他社もただで紹介している訳ではなく、M&A案件が成約した際に30%程度のフィーを紹介元の企業にM&A仲介会社は支払っている為、その分、従業員に還元する原資が少なくなることになります。よって、直接営業の比率が圧倒的に高いM&Aキャピタルパートナーズの従業員の平均給与は、M&Aセンターとストライクの2社よりも高いという結果になっています。
また、新興の非上場のM&A仲介会社であれば、上記背景から他社経由の比率は非常に低く、直接営業で案件開拓を行っていると思われます。
話が脱線しましたが、「他社経由」について、具体的にM&A仲介会社が提携する他社は以下のようなプレイヤーとなります。
・大手金融機関
・地方銀行
・信用金庫
・証券会社
・保険会社
・会計・税理士事務所
例えばM&Aセンターは2023年10月時点で、307の地域金融機関(地方銀行の9割、信用金庫の8割)、1,026の会計・税理士事務所等と幅広く提携しています。
直接営業についてですが、具体的な手法は以下となります。
・テレアポ(電話営業)
・DMや手紙の送付
・ウェビナー開催
・TVCM、雑誌、ウェブ等への広告出稿
DMや手紙の送付、ウェビナー開催では中々差がつきづらく、広告出稿はどうしても費用がかかることから、多くのM&A仲介会社にとっての直接営業の主流はテレアポとなります。
面識がない相手に電話をかけることをコールドコールと言いますが、当然ながらアポが取れる確率は低く1%未満となります。それでも1日に100件、200件と電話を掛け続けることでアポの獲得を目指すことが必要であり、M&A仲介会社への転職希望者はテレアポを厭わない覚悟が必須です。
ちなみにM&Aキャピタルパートナーズの中村社長は現在も、社長自身がテレアポする時間を設けることで、現場を鼓舞しているとのことです(なお、2023年にオリックスがDHCを約3,000億円で買収した案件はM&Aキャピタルパートナーズが仲介していますが、真偽は不明なものの中村社長自身がDHCにテレアポしたことで獲得した案件であると筆者は聞いています)。
M&A仲介会社におけるエグゼキューション
エグゼキューションにおいて、M&A仲介会社は売り手と買い手企業の調整役としての役割を果たすこととなり、その力量が試されるプロセスとなります。
まず最優先となるのは売り手の意向であり、M&A仲介会社は売り手の意向を踏まえて、売却プロセスを設計することとなります。例えば売却価格を最大化するのであれば可能な限り多くの買い手候補企業に当たっていくべきですし、会社売却に動いているという情報が漏洩してしまうリスクを抑制したいということであれば限定された買い手候補企業にあたっていくべきとなります。
なお、M&Aにおける売却プロセスは、複数の買い手候補企業から法的拘束力を持たないLOIの提示を受ける1次入札と、買い手企業1社を選定して独占交渉権を付与し、当該買い手企業によるDDの実施及び最終条件の提示までの2次入札に通常分かれます。
売却プロセスを1次入札と2次入札に分ける理由ですが、買い手、売り手ともに相応の事情があります。
具体的には買い手の立場としては、億単位のお金が動くM&Aの実行を意思決定する上では法律事務所等の外部の専門業者を活用したDDが不可欠であり、DDだけで数百万円以上の経費が発生します。多ければ数十社の買い手候補企業がいる中で、DD費用を掛けても無駄に終わってしまう可能性が高いことから、DDをする上で独占交渉権の付与を売り手に求めることが通常となります。
また、売り手からしてもDDの対応には非常に労力が掛かります。法律事務所、会計・税理士事務所、戦略コンサル、買い手企業などから様々な角度からのQ&Aや資料リクエストがなされる為、複数の買い手企業からのDDを並行して対応することは物理的に困難です。
これらの事情から、複数の買い手候補企業からの法的拘束力を持たないLOIの提示までの1次入札と、選定された買い手企業によるDDの実施及び最終条件の提示までの2次入札に分けることが通常となります。
M&A仲介会社に未経験で転職する場合に求められる経験・スキル
M&A仲介会社への未経験での転職にあたり、以下のような経験・スキルが求められます。
なお、未経験の場合は20代が望ましく、30代半ばになると書類選考の通過は厳しい可能性が高いです。
【優れた営業実績】
社内No.1の営業実績や、社長賞・MVPといった社内表彰経験があることが重要です。なお、社内表彰経験等がない場合、予算に対する高い達成率をアピールしましょう。
【企業経営者や医師、弁護士といった、意思決定者への営業経験】
M&A仲介は売り手である企業オーナーを口説くことが重要であることから、経営者もしくはそれに近い属性の方への営業経験があれば重宝されます。
【テレアポの営業経験】
M&A仲介会社に入社した場合、1日100件以上のテレアポをすることもざらにあり、ストレス耐性を示す意味でテレアポの営業経験が有るに越したことはありません。
【会計知識】
M&Aという職業柄、決算書を読める知識が必要になってきます。会計知識が最初から必ずしも必須な訳ではありませんが、M&A仲介業界への転職を志望する場合、簿記2級程度を取得していればM&A仲介業界への転職にあたっての熱意を伝えられると思います。
【学び続ける姿勢】
M&Aは、ヒューマンスキルとともにM&Aや業界業種ごとの多様な知識も求められ、総合格闘技に例えられます。海千山千の経営者と対峙し、彼らにアドバイスする以上、どれだけ学んでも限界はありません。この学び続ける姿勢をアピールする上で、資格試験に積極的に挑戦することを推奨します。
以上のポイントから、M&A仲介会社への転職者は、企業経営者への営業経験とともに会計知識も有している方が多い銀行・証券業界からの転職者が多くなっています。また、キーエンスなどの著名なメーカー出身者も多い点が特徴となります。
ただし、どの業界だから必ずしも取る/取らないという訳ではなく、経営者の懐に入って信頼関係を築けるようなコミュニケーション能力と、それを裏付ける高い営業実績を有していれば十分に可能性はあります。
なお、日本M&Aセンターの、直近3年以内に入社した中途社員の出身業界は以下の比率となっています(2023年4月1日時点)。
- 金融:44%
- メーカー:17%
- 商社:13%
- サービス、人材紹介:11%
- コンサル、士業:6%
- 不動産:3%
- IT、情報:2%
- その他:4%
M&A仲介会社への転職を考えている求職者の方からの質問例
【Q1】現職で優れた営業実績がない、もしくは営業経験自体がないのですが、この場合はM&A仲介会社への転職は難しいでしょうか?
【回答】弁護士、公認会計士といった合格難易度の高い資格を有していたり、何か飛びぬけた実績、経験が無ければ、書類選考の通過は難しいと思われます。現職で営業部門に異動してそちらで優れた実績を出すか、証券会社・銀行等の金融機関の営業部門に転職してキャリアを積むことが必要となります。なお、学歴が優れている方で、社会人歴3年前後の場合には第二新卒枠として書類選考を通過できるM&A仲介会社はあります。
【Q2】現職は営業ではありますが、(例えばルート営業などで)経営者相手の営業経験やテレアポの営業経験がないのですが、この場合はM&A仲介会社への転職は難しいでしょうか?
【回答】経営者相手の営業経験やテレアポの営業経験があるに越したことはないのですが、必須という訳ではありません。この場合、社内でNo.1の売上を記録したりMVP・社長賞のような社内表彰を受賞するようにして頂くとM&A仲介会社への転職成功の確度を引き上げることが出来ます。
【Q3】社会人1年目なのですが、この場合はM&A仲介会社への転職は難しいでしょうか?
【回答】社会人3年前後は歓迎されますが、社会人1年目の場合はまだ入社して数か月であり、どうしても逃げの転職というイメージで捉えられてしまいます。社会人2年目で、社内でNo.1の売上を記録していたりMVP・社長賞のような社内表彰を受賞してある程度やりきった状態であれば、更に難易度や付加価値の高い営業を目指すステップアップとしての転職と捉えられ、M&A仲介会社への転職に成功することが出来ると思われます。
【Q4】卒業した大学は偏差値が高くなく、学歴があまり良くないのですが、この場合はM&A仲介会社への転職は難しいでしょうか?
【回答】M&Aは総合格闘技に例えられ、M&A自体の知識はもちろん、会計・税務・法律の知識や多様な会社のビジネスモデルへの深い理解も求められます。よって、学歴が良いに越したことはないですが、これまでに述べてきたような高い営業実績を有していれば、偏差値の低い大学卒であってもM&A仲介会社への転職は十分可能です。
【Q5】M&A仲介会社に入社した方は、その後、どういった業界に転職することが多いのでしょうか?
【回答】M&A仲介業界は急速に成長しており、新興のM&A仲介会社が数多く立ち上がっている状況ですので、そうした新興のM&A仲介会社の経営層や責任者クラスとして転職するケースや、自身でM&A仲介会社を立ち上げるケースもあります。その他、銀行や証券会社のM&A部隊、より専門性を高める為のFASを含めたM&Aアドバイザリー会社、PEファンドへ転職するケースがあります。M&A仲介会社の年収水準が高い為、同じく年収水準の高い金融業界内での転職を行うケースが大多数となりますが、稀に取引先のお客様に気に入られて事業会社の経営企画といったM&A部隊に転職する方もいます。
【Q6】M&A仲介会社に入社する上で、覚悟しておいた方が良いことはあるでしょうか?
【回答】M&Aでは接する相手方の多くは経営層となります。特に売り手はほとんどの場合、非上場企業のオーナー社長ですので一癖も二癖もある方が多く、そうした方の信頼を得るために、連絡が来た際には昼夜問わず対応する必要が出てきます。残業時間については会社によって違いがあり、例えば上場している大手M&A仲介会社の一社であるM&A総合研究所の月平均残業時間は20時間~40時間程度と言われていますが、全体としてはやはり他業界に比べて多く、ある程度はワークライフバランスを犠牲にする覚悟は必要となります。
【Q7】M&A仲介会社の年収が高い理由を教えて下さい。
【回答】M&A仲介会社の年収が高い理由は以下となります。なお、M&A仲介会社の給与体系は基本給に加えてインセンティブ制を採用している企業が多く、インセンティブの比率が高い企業ほど基本給が低い傾向にはあります。例えば上場しているM&A仲介会社で平均年収が最も高いM&Aキャピタルパートナーズの場合、未経験からの入社の場合の基本給は420万円程度(月額35万円)とのことですので、成果が出せない時期は厳しい反面、成果を出せば億単位の年収も狙える夢のある業界となっています。
・M&A仲介会社はコンサルや弁護士等と同じく、人件費以外の経費がほとんど掛からないビジネスモデルであることから、その分、人が全てであり人に投資することが可能なビジネスモデルとなっています
・M&A仲介業務は一件あたりの成約単価が高く、一件で数千万円~数億円の報酬を見込むことが出来ます。M&A仲介会社は売上の10%~20%をインセンティブとして還元する方針を採用している企業が多い為、1億円の報酬の案件を獲得した場合、インセンティブを10%として1,000万円の賞与を期待することが出来ます。
【Q8】M&A仲介会社と、M&Aアドバイザリー会社のどちらに転職するのが良いでしょうか?
【回答】迷っているようであればどちらの会社も受けてみて、自身に合う方を選択するのが良いと思いますが、M&A仲介会社は実績を出せば1年目でも大きな報酬を得られるのに対して、M&Aアドバイザリー会社は役職と年収が基本的に比例する為、大きな報酬を得るには10年単位で昇進に向けて実績を上げる必要があり、腕に覚えがあってすぐにでも大きな報酬を得たいという方はM&A仲介会社が向いていると思います。一方、M&Aアドバイザリー会社の場合、顧客へのプレゼンテーション資料の作成や財務モデリング、DDの取り仕切り等を経験することが出来、M&A仲介会社と比べてより包括的なスキルが得られることから、M&Aアドバイザリー会社からの転職先はより多様であり、例えばはPEファンドやベンチャー企業のCFOへの転職等も望むことが可能です。
【Q9】外資系投資銀行に憧れを持っています。M&A仲介会社から外資系投資銀行への転職は可能でしょうか?
【回答】年齢が20代で、東大や京大といったトップクラスの大学を卒業しており、ネイティブレベルの英語力を有していれば、新卒レベルの役職(アナリスト)としての転職は可能だと思われますが、実質的に未経験者層としての転職となります。投資銀行では、プレゼンテーション資料(業界用語で「Pitch(ピッチ)資料」)や財務モデリングの作成業務が重要となりますが、M&A仲介会社ではそういった業務は通常行われないこともあり、M&A仲介会社の実務経験は基本的に考慮されず、外資系投資銀行に適用できるポテンシャルが有りそうかの観点から採用可否が判断されます。なお、新卒レベルの役職(アナリスト)であっても、外資系投資銀行であれば年収は1,000万円を優に超えますので、生活レベルは落とさずに済むと思われます。
M&Aアドバイザリー会社への転職
M&Aアドバイザリー会社の主要プレイヤー
M&Aアドバイザリーの業界では、外資系投資銀行、国内系投資銀行、4大会計事務所のFAS、独立系のM&Aアドバイザリー会社に大きく区分されます。なお、外資系投資銀行は特に規模・サービスラインが巨大なバルジ・ブラケットと、M&Aに特化したブティックに分かれますので、それぞれ区分して記載しています。
【外資系投資銀行(バルジ・ブラケット)】
・ゴールドマン・サックス証券
・モルガン・スタンレーMUFG証券
・J.P.モルガン証券
・BofA証券(旧 メリルリンチ日本証券)
・シティグループ証券
・UBS証券
・バークレイズ証券
・ドイツ証券
【外資系投資銀行(ブティック)】
・ラザードフレール
・フーリハンローキー
・ロスチャイルド・アンド・コー・ジャパン
・グリーンヒル・ジャパン
・モーリス
・リンカーン・インターナショナル
・ジェフリーズ証券
・マッコーリーキャピタル証券
【国内系投資銀行】
・野村證券
・大和証券
・三菱UFJモルガン・スタンレー証券
・SMBC日興証券
・みずほ証券
【4大会計事務所のFAS】
・KPMG FAS
・EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC。旧 EY TAS)
・デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー(DTFA)
・PwCアドバイザリー
【独立系のM&Aアドバイザリー会社】
・フロンティアマネジメント
・経営共創基盤(IGPI)
・ピナクル
・アミダスパートナーズ
・レコフ
取り扱う案件について、平均のディールサイズは一般的に、外資系投資銀行>国内系投資銀行>4大会計事務所のFAS>独立系のM&Aアドバイザリー会社の順となりますが、国内系投資銀行や4大会計事務所のFASが大規模案件を取り扱わないという訳ではなく、国内系投資銀行や4大会計事務所のFASは大規模案件も中規模案件も取り扱う一方、外資系投資銀行は大規模案件に特化しているということが要因となります。
M&Aアドバイザリー会社の業務内容
M&Aアドバイザリー会社の業務内容は以下の流れで進んでいきます。
会社によって、オリジネーションからエグゼキューションを一気通貫で担当する会社と、オリジネーションとエグゼキューションの担当が分かれている会社もあります。
【オリジネーション】
・ピッチ資料を作成し、顧客企業とのM&A戦略や資金調達に係るディスカッションの実施
・顧客企業から買収対象企業の決定及びFAとして選定する旨の通知の受領(顧客企業が買い手となる場合。以下同様の前提で記載)
・顧客企業との秘密保持契約(CA)の締結
・顧客企業とのM&Aアドバイザリー契約の締結
【エグゼキューション】
・買収対象企業の財務モデリング(PL、BS、CFが連動した、買収対象企業の事業計画のシミュレーション)の作成
・(顧客企業と連携の上)売り手へのQ&A、資料リクエストの送付
・(顧客企業と連携の上)売り手へのLOIの提示
・二次プロセスに選定された場合、独占交渉権の獲得
・(顧客企業と連携の上)各種DD業者の起用及びDDの取りまとめ
・(顧客企業と連携の上)買収にあたっての最終条件提示
・顧客企業と売り手による株式譲渡契約(SPA(Stock Purchase Agreement)又はDA(Definitive Agreement)とも言います)の締結支援
・クロージング(買い手企業による株式譲渡代金の支払いや、その対価としての株券の移動)
M&Aアドバイザリー会社におけるオリジネーション
M&Aアドバイザリー会社が付き合う会社は通常、上場企業となります。
例えばM&Aアドバイザリー会社の最高峰である外資系投資銀行の場合、M&A1件あたりの報酬が数億円以上とならなければ取り扱わない為、数百億円以上の規模のM&A案件でなければ対象にならず、顧客層は自然と時価総額数千億円以上の上場会社となります。
そのように規模感のある上場会社の場合、買収対象となる日本の上場会社や海外の同業とは直接のコンタクトを有していることが多く、買い手・売り手の当事者同士でM&Aを進める基本方針が決まった上で、M&Aアドバイザリー会社にFAとして選定する旨の連絡があり、案件として動き出すのが一般的な流れとなります。
※FAとして選定がなされることを業界用語で「マンデート」と言います。なお、複数のM&Aアドバイザリー会社に声を掛けて、フィー水準を含めた提案をしてもらい、実際に依頼するFAを選定する「ビューティーコンテスト(略してビューコン)」というコンペが実施されることもあります
よって、M&Aアドバイザリー会社は、顧客企業と親密な関係を築くことは勿論、いざというときに連絡をしてもらえるように日々情報提供し、言い方は悪いですが「恩を売っておくこと」が必要となります。
その為、常日頃から無償でピッチ資料を作成し、買収対象企業の提案をしたり、資本市場の状況のアップデートをしたり、海外の同業企業の決算動向や買収に関する情報提供などを行っています(海外の同業企業を担当しているM&Aバンカーを来日させて、情報共有させるケースもあります)。
M&A仲介会社はソーシングが最も重要と記載しましたが、M&Aアドバイザリー会社にとってもこのオリジネーションが最も重要であり、オリジネーションが出来るM&AバンカーはどのM&Aアドバイザリー会社においても厚遇されることとなります。
M&Aアドバイザリー会社におけるエグゼキューション
エグゼキューションにおいて、M&Aアドバイザリー会社は顧客である売り手もしくは買い手の最善の利益が実現されるよう行動することが求められます。
顧客が譲渡価額を最重要視するのであれば、買い手であればより安く、売り手であればより高くM&Aが実現されるよう交渉戦術を考えることとなります。
とはいえ、顧客の意向を貫き通そうとして無茶な交渉をした場合、協議がまとまらず破談(業界用語で「ディールブレイク」と言います)になってしまいます。
間違ってもそういったことにはならないよう、例えばFAであるM&Aアドバイザリー会社が無理筋をふっかけつつ顧客がなだめて妥協点を探る交渉戦術である「good-cop-bad-cop-tactics」といった交渉を行ったり、相手方のFAから密に情報収集してお互いの譲れないポイントや条件を確認することで、顧客にとっては重視していないポイントは譲歩しつつ逆に顧客にとって重要なポイントは望み通りの条件を獲得するなど、FAとしての立場を活かした交渉を行うことになります。
なお、FAの役割の一つは上記のような交渉戦術の立案・遂行にありますが、その他にも法務、会計・税務、ビジネスといった各種DDの取りまとめ(QAリストのやり取り等、M&Aの実務は膨大になります。これらの取りまとめを、必要な兵站線に例えて業界用語で「ロジスティクス(略してロジ)」と言います)や、DDの内容も反映した財務モデリングの作成及びそれによる譲渡価格の算定もFAの重要な役割となります。
M&A仲介会社の場合はDDや譲渡価格の算定には携わりませんが、M&Aアドバイザリー会社はDDや譲渡価格の算定において主体的な役割を果たします。
なお、外資系投資銀行や国内系投資銀行などでは、顧客とのリレーションを構築してオリジネーション業務を担う「カバレッジ」チームと、具体化した案件の執行に特化する「プロダクト」チームがそれぞれ分化しています。
「カバレッジ」は多くの場合、産業別となっており、例えば銀行や保険会社等の金融機関を顧客とするFIG(Financial Industry Group)、通信・メディア・IT企業を顧客とするTMT(Telecom Media Telecommunication Group)、不動産会社やREITを顧客とするREG(Real Estate Group)、商社・製造業など幅広い業界を顧客とするGIG(General Industry Group)、投資ファンドを顧客とするスポンサーカバレッジといった形でチームが分かれており、それぞれの業界に特化することで専門性を高めることで提案の質を向上させ、オリジネーションの確度を高める工夫をしています。
また、「プロダクト」についても、M&Aのエグゼキューションを担当するM&Aチームの他、IPOやPO、ワラントといった資本性証券の発行等を担当するECM(Equity Capital Market)チーム、社債や地方債、財投機関債といった債券発行を担当するDCM(Debt Capital Market)に分かれます。
M&Aアドバイザリー会社に未経験で転職する場合に求められる経験・スキル
M&Aアドバイザリー会社に未経験で転職にあたり、以下のような経験・スキルが求められます。なお、M&A仲介会社と同様、未経験の場合は20代が望ましく、30代半ばになると書類選考の通過は厳しい可能性が高いです。
【高い学歴】
東大・京大といった旧帝大、一橋大学、早慶上智レベルが主な採用対象であり、MARCHや関関同立レベルでは足切りに合う場合があります。
【英語力】
顧客となる大手上場企業では海外企業の買収といったクロスボーダー案件の比率が多い為、転職時に英語が出来ない場合も英語力を磨いていく必要があります。なお、外資系投資銀行などでは英語面接がありますので、英語の勉強をしておくに越したことはありません。
【会計知識】
M&Aという職業柄、決算書を読める知識が必要になってきます。会計知識が最初から必ずしも必須な訳ではありませんが、M&Aアドバイザリー業界への転職を志望する場合、簿記2級程度を取得していれば転職にあたっての熱意を伝えられると思います。
【タフさ】
顧客に価値提供をする上で、時には深夜・土日も関わらず仕事をすることが求められます。自身の肉体的・精神的なタフさをアピールできる材料があればより望ましいです。
以上のポイントから、M&Aアドバイザリー会社への転職者は、銀行、証券といった同じ金融業界の他、総合商社やコンサルティング業界の出身者が多くなっています。
なお、M&A仲介業界ではキーエンス出身者が一大勢力となっていますが、M&Aアドバイザリー業界ではキーエンス出身者はごく一部となります
M&Aアドバイザリー会社への転職を考えている求職者の方からの質問例
【Q1】現職で優れた営業実績がない、もしくは営業経験自体がないのですが、この場合はM&Aアドバイザリー会社への転職は難しいでしょうか?
【回答】弁護士、公認会計士といった合格難易度の高い資格を有していたり、偏差値の高い大学を卒業していて英語がネイティブレベルであれば、M&Aアドバイザリー会社への転職は可能です。
【Q2】卒業した大学は偏差値が高くなく、学歴があまり良くないのですが、この場合はM&Aアドバイザリー会社への転職は難しいでしょうか?
【回答】M&Aアドバイザリー会社の顧客は大手上場企業であることが多く、その社員はやはり学歴の高い方々となります。そういった言わばエリート社員に対してアドバイスを行う以上、能力以前の話として、高い学歴が求められることとなりますので、厳しい話ですが偏差値の高くない大学(イメージとして、MARCHレベルで足切りになる可能性があります)を卒業している場合はM&Aアドバイザリー会社への転職は難しいと思われます。
【Q3】社会人1年目なのですが、この場合はM&Aアドバイザリー会社への転職は難しいでしょうか?
【回答】M&A仲介会社の章でも記載しましたが、社会人3年前後の転職は歓迎されますが、社会人1年目の場合はまだ入社して数か月であり、どうしても逃げの転職というイメージで捉えられてしまいます。社会人2年目で、社内でNo.1の売上を記録していたりMVP・社長賞のような社内表彰を受賞してある程度やりきった状態であれば、ステップアップとしての転職と捉えられ、M&Aアドバイザリー会社への転職に成功することが出来ると思われます。
【Q4】M&Aアドバイザリー会社に入社した方は、その後、どういった業界に転職することが多いのでしょうか?
【回答】M&Aアドバイザリー会社の退社後、やはり同業のM&Aアドバイザリー会社に転職する方が最も高い割合を占めます。M&Aアドバイザリー会社は外資系投資銀行、国内系投資銀行、4大会計事務所のFAS、独立系のM&Aアドバイザリー会社に大きく分けられますが、これらの会社を移りながら昇進の機会をうかがうのがは王道のキャリアステップとなります。なお、同業への転職の他は、PEファンドやヘッジファンドといった投資家に転じるケースや、大企業のM&A部隊、ベンチャー企業のCFOに転じるケースもあり、多様なキャリア形成が期待できます。
【Q5】M&Aアドバイザリー会社に入社する上で、覚悟しておいた方が良いことはあるでしょうか?
【回答】M&A仲介会社同様、M&Aアドバイザリー会社ではやはりワークライフバランスをある程度犠牲にする覚悟が必要となります。例えば欧米のクロスボーダー案件を担当する場合、時差があることからどうしても深夜残業が必要になります。とは言っても毎月、昼夜も土日も関係なく働く訳ではなく、特に忙しいのはFA選定にあたってのビューティーコンテストとM&A案件のエグゼキューションのタイミングとなります。また、M&Aアドバイザリー会社では同僚が極めて優秀であることが多いのと、数少ないマネージングディレクターやパートナーといったポジションに向けて出世競争をする以上、同僚は仲間でありつつも強烈なライバルであり、いわゆる「Up or Out」と呼ばれる厳しい環境であることは覚悟しておく必要があります。
【Q6】M&Aアドバイザリー会社の年収が高い理由を教えて下さい。
【回答】M&Aアドバイザリーの年収が高い理由は、M&A仲介会社と同じく人件費以外の経費がほとんど掛からず人に投資することが可能なビジネスモデルであるとともに、一件あたりの成約単価が高く、一件で数千万円~数億円の報酬を見込むことが出来る為となります。なお、M&Aアドバイザリー会社はM&A仲介会社よりも基本給が高いとともに、インセンティブの比率は低く、役職によっても異なりますがインセンティブの比率が高い外資系証券でも基本給とインセンティブの比率は1:1程度となります。
【Q7】外資系投資銀行に憧れを持っています。例えば4大会計事務所のFASや独立系のM&Aアドバイザリー会社から外資系投資銀行への転職は可能でしょうか?
【回答】基本的には英語力があれば十分可能ですが、独立系のM&Aアドバイザリー会社によってはかなり評価が分かれる所になります。経営層が外資系投資銀行で占められている独立系のM&Aアドバイザリー会社であれば外資系投資銀行へ転職できる可能性がありますが、経営層に外資系投資銀行出身者がいない場合、かなり難易度が高いと考えられます。なお、20代であればポテンシャル採用で転職可能ですが、30代以上の場合、過去のM&A案件の実績やそれらのディールにおいてどういった役割を果たしてきたかが精査されることとなります。